交通事故の後のむち打ち症~治療や保険金について

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交通事故の後のむち打ち症について
「車に乗っていたら、後ろから追突されてしまった…」
「交通事故の後から首が痛い…」
車を運転していて、信号待ちなどで停車しているときに、前方をよくみていなかった後続車から追突されてしまうなどといった事故によって、むち打ち症状が出てしまう方は少なくありません。
「むち打ち」とは正式には「頸椎捻挫」「頸部挫傷」などと呼ばれるものですが、一般的には「むち打ちになってしまった」という話することが多いでしょう。
ただ、むち打ちが果たしてどのような原因による症状なのか、明確に答えられる方はそれほど多くないように思います。
しかし、交通事故後から首や肩、腕などに対して痛みを感じたり、しびれを感じたりする症状はとても多く、場合によっては吐き気やめまい、耳鳴りなどに悩まされることがあります。
慢性的な腰痛や息苦しさ、食欲不振などを引き起こしてしまうことやうつ病などのメンタル疾患に繋がってしまうこともありますので注意が必要です。
特にむち打ちは事故後すぐに症状が現れないことも多く、その場合、自分自身が交通事故によって何らかのケガをしたとは思わないことも少なくありません。
そのため、その場では病院に行かずに済ませてしまい、数日が経過した後に少しずつ痛みやしびれ、耳鳴り、めまいなどを感じるようになることがあります。
しかも事故後の処理においては物損事故としてだけで届出を出してしまい、事故と症状の因果関係を証明できなくなり、慰謝料の支払いなどに大きな影響を与えてしまうことになります。
ここでは、むち打ちの症状の特徴についてお伝えし、むち打ちになった場合の保険金関係についても詳しくお伝えしていきましょう。
01むち打ち症とは何ですか?
「むち打ち」とは、多くのケースでは自動車による追突事故や急停車などによるものが多く、追突や衝突の衝撃によって首に負担がかかってしまい引き起こされる症状を指しています。
むち打ちは正式な傷病名ではなく、「頸椎捻挫」「頸部挫傷」「外傷性頸部症候群」などと呼ばれるものであり、頸部に生じた損傷であると言えます。
人間の頭は体重の10分の1程度の重さがあると言われており、細い首によってその重い頭を支えています。
しかし追突などによって急激な衝撃を与えることによって、頭が前後に揺さぶられてしまい首に大きな負担をかけてしまうことになるのです。
むち打ちというと、一般的には首周辺の痛みや腕のしびれなどをイメージしますが、事故直後にはそれほど大きな自覚症状がないことも多くあります。
特に交通事故直後は興奮状態であって痛みなどの感覚が麻痺していることもあり、数日が経過してから、さまざまな症状が現れたということも珍しくないのです。
首に大きな負担をかけた場合には、首周辺の筋肉に対して緊張を与えているというだけではなく、神経、腱、靭帯などを損傷していることもあります。
そのため首や腕などの痛みやしびれ感だけではなく、頭痛やめまい、疲れやすさなどといった症状が現れることも多いのです。
交通事故を起こしたのであれば、自覚症状の有無にかかわらず、首や腰に負担がかかったと感じたのであれば、むち打ちを疑ってみることが大事です。
02交通事故によるむち打ち症の後遺症
上記でもお伝えした通り、交通事故後には興奮していることもあり、自分自身の痛みやしびれなどの症状を自覚できないことも少なくありません。
冷静になるにつれて感じるようになるということがとても多いのです。
むち打ち症の後遺症として多いものには、首や腕などの痛みやしびれが多いのですが、そのほかにも次のような症状が現れることがあります。
- 原因が分からない頭痛に悩まされる
- 以前よりも疲れやすくなってしまった
- ぐっすりと眠れない日が続いている
- めまいを起こすことが多くなった
- 仕事に集中することができない
- 何事に対しても意欲がなくなった
- 雨の日に症状が強く現れる
このような症状はむち打ち症の後遺症として、とても多くみられるものです。
ただこれらの症状が後から現れてきた場合、本当に事故によるむち打ちが原因なのか、その因果関係を証明することがとても難しくなってしまいます。
そのため、事故にあった場合には、痛みやしびれを感じていない場合であっても、まずは整形外科を受診して、しっかりと検査を受けておくようにしてください。
整形外科に受診しておけば、レントゲン検査によって骨折の有無などの確認をしてもらえますし、MRI検査によって脊髄や靭帯、神経などの異常を見つけること可能です。
後に詳しく述べますが、保険金に関することや障害等級の認定においてとても大切になってくるのです。
03むち打ち症の具体的な治療法は何ですか?
- 鎮痛剤などによる薬物治療
- 神経ブロック注射による治療
- 運動療法や物理療法によるリハビリ
むち打ち症の治療としては、悩まされている首や腕などの痛みやしびれを抑えながら改善を目指すために、リハビリに取り組んでいくことが一般的となっています。
鎮痛剤などによる薬物治療

むち打ちによって痛みやしびれが強く現れているような場合であれば、痛みに対しては鎮痛剤や湿布薬などを用いたり、しびれに対しては神経を活性化させるために薬物治療に取り組むことがあります。
神経ブロック注射による治療
むち打ちによる痛みが強く、鎮痛剤を服用しても痛みが治まらないような場合には、痛みを抑えるために神経ブロック注射が行われることがあります。
また頭痛やめまい、耳鳴り、疲れやすいなどといった、むち打ち特有の後遺症を引き起こしている場合においても、神経症状を緩和させるために有効であると言われています。
運動療法や物理療法によるリハビリ
むち打ちは、首や腕周辺の筋肉に緊張を与えてしまうことによって血流が悪くなったり、神経を圧迫してしまうことによって、痛みやしびれが続くことがあります。
悪化することを予防し、症状を改善させるためには、理学療法と呼ばれる運動療法や物理療法に取り組むことが大切であると考えられています。
交通事故後において症状が現れている間は安静を要することもありますが、ある程度症状が安定してくれば、身体機能を改善させるためにこまめにリハビリに取り組むことが必要なのです。
04交通事故によるむち打ち症の場合に支払われる金額の種類
- 治療費
- 通院交通費
- 文書料など雑費
- 休業損害
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 逸失利益
交通事故によるむち打ち症の場合、加害者に対して請求できる金額の種類がいくつもあります。
どのような項目があるのか、チェックしておくことが大切です。
治療費
交通事故によって必要となった通院費用や入院費用、投薬費用、検査費用など、すべて治療費として請求することができます。
通院交通費
通院するために必要となった交通費も請求が可能です。電車やバスなど公共交通機関を利用した場合には実費で、自家用車を利用した場合にはガソリン代(15円/㎞)を請求することが可能です。
また必要に応じてタクシー料金が認められることもあります。
文書料など雑費
医師に書いてもらった診断書などといった文書料や検査資料、交通事故証明書手数料などを請求することができます。
また入院中に必要になった雑費についても請求が可能です。
休業損害
交通事故によるむち打ち症によって仕事を休み、収入が減った場合に補償を受けることができます。サラリーマンだけではなく、アルバイトやパート、自営業者でも請求が可能です。
そのため収入に影響が無かった場合には、請求することはできません。
専業主婦の場合、収入がそもそもない場合がありますが、休業損害を請求することができますので、注意が必要です。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は「障害慰謝料」と呼ばれることもあり、交通事故によって入院したことによる苦痛を負ったことに対する慰謝料になります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、交通事故でむち打ちとなり、治療をしても後遺症が残ってしまい、後遺障害の等級が認定された場合に請求ができる慰謝料です。
後遺障害等級によって補償の内容や慰謝料の金額は異なります。
逸失利益
逸失利益とは将来に得られるはずだったのに得られなくなってしまった収入を請求することができるものを言います。
後遺障害等級が認定されるような場合においては、むち打ちの症状によって労働力が低下してしまい収入が下がってしまうことが予想されます。
その失われた利益を請求できるのが逸失利益なのです。
05交通事故でむち打ち症の治療費が途絶えた場合の対処方法

医師が治療を終了してしまった場合や保険会社が形式的に補償を打ち切った場合には、治療費の補償が途絶えてしまうことがあります。
医師が治療を終了する場合は、検査結果などによってこれ以上の治療の必要性がないと判断する場合で、本人に痛みやしびれなどが生じていても終了を判断されることがあります。
保険会社からの打ち切りについては、3か月が経過したなどといった、一般的なケースと照らし合わして判断されてしまいます。
いずれにおいても、通院頻度がそれほど多くなく、治療内容も簡易で、軽度であると判断されるような場合においては、打ち切りを打診される可能性が高くなります。
そのため、痛みが継続しているのであればきちんと通院をしておくようにし、医師に対しても症状を理解してもらうようにしておくことが大事です。
06むち打ち症が治らない場合は、後遺障害等級を証明してください!
むち打ち症はとても辛い症状ですから、治療によって改善を目指すことが一番ですが、もし症状が残ってしまうようであれば後遺障害等級を証明してもらうことが大切です。
後遺障害等級を証明してもらえば、交通事故による後遺障害であると証明することができ、逸失利益と慰謝料を受け取ることができるメリットがあります。
後遺障害であると証明ができれば、将来にわたる治療費を請求することができ、介護が必要になった場合にも補償を受けることが可能です。
また将来的に得られただろう利益の補償を受け、苦痛を負った心身に対する慰謝料も請求することができるのです。
保険会社から治療の打ち切りを迫られるようなこともありますが、後遺障害等級は受けておくようにしましょう。
07むち打ち症の補償額と請求方法
交通事故によるむち打ち症で後遺障害を認定される場合、ほとんどが14級であり、まれに12級のことがあります。
14級の認定基準は「局部に神経症状を残すもの」であり、12級は「局部に頑固な神経症状を残すもの」となっています。
補償額については等級に応じて「自賠責基準」と「裁判基準」が定められています。
・14級の場合
自賠責基準:32万円
裁判基準:110万円
・12級の場合
自賠責基準:94万円
裁判基準:290万円
それぞれの等級が認められた場合、自賠責保険から等級に応じた慰謝料を受け取ることができます。
裁判基準については、弁護士もしくは「公益財団法人 交通事故紛争処理センター」を利用することによって解決することが可能です。
任意保険については、独自の基準が定められています。
08むち打ち症の逸失利益額と請求方法
交通事故によるむち打ち症の後遺症が残ってしまった場合には、将来にわたって得られるはずだった収入を逸失利益として請求することができます。
後遺障害が残ってしまったことによって、将来の能力が何パーセント失われたかといった考え方によって金額に換算していくことになります。
逸失利益の補償額についても等級に応じて「自賠責基準」と「裁判基準」が定められており、以下の金額が限度額となっています。
・14級の場合
自賠責基準:110万円
・12級の場合
自賠責基準:290万円
逸失利益の計算方法は次の通りです
逸失利益=基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間の係数
『基礎収入額』は年収をベースにするもので、サラリーマンであれば事故前年の年収額となり、事業所得者であれば事故前年の申告所得額となります。
『労働能力喪失率』は後遺障害等級別によって定められている割合です。14級であれば5%、12級であれば14%となっています。
『労働能力喪失期間の係数』とは「ライプニッツ係数」と呼ばれているもので、一般的にむち打ち症においては14級が5年、12級で10年と区切られて考えられています。
係数は5年の場合は4.3295、10年の場合には8.5302という数字が用いられます。
例えば、年収400万円の方の逸失利益の額は次の通りとなります。
14級の場合
400万円×5%×4.5797=915,940円
12級:
400万円×14%×8.5302=4,761,120円
このケースの場合、14級においては満額請求が可能ですが、12級の場合であれば290万円が上限金額と定められていますので、自賠責保険で定められている上限額が請求額となります。
それぞれの等級が認められた場合、自賠責保険から等級に応じた逸失利益を受け取ることができます。
なお裁判基準では、上記の計算式をそのまま適用されることになり、上限額はなく、ケースによってはさらに増額されることもあります。
09むち打ち症の場合の損害賠償
交通事故によるむち打ち症の場合、損害賠償として受けられるものは、上記でもお伝えした通り、治療費や通院交通費、休業損害などとなっています。
後遺障害に認定されれば後遺障害慰謝料や逸失利益が認められるようになります。
損害賠償のなかで大きな金額になるのは、後遺障害等級に認定された場合の後遺障害慰謝料と逸失利益になります。
そのため、むち打ち症の後遺症が残ってしまった場合には、あきらめずに後遺障害等級を証明してもらうことを目指すといいでしょう。